の個人展覧会で、右のはたっく[#「はたっく」に傍線]の実物を見る事が出来た。柄はすべて一本の矢で、矢弭の処に、小さな銅鏡をつけ、五色の帛が幣束を思はせる具合に括りつけてあつた。東歌の
[#ここから2字下げ]
山鳥の尾ろの秀尾《ハツヲ》に 羅摩《カヾミ》かけ、捉《トナ》ふべみこそ、汝によそりけめ(万葉巻十四)
[#ここで字下げ終わり]
と言ふ歌は、依然として、謎の様に辿られるのみであるが、根本には、山鳥の秀尾《ハツヲ》を矧いだ矢に、鏡をかけたと言ふ幣束が、古い日本にも行はれて居た事実を、潜めて居る様な気がしてならぬ。
賀茂祭りや、射礼のあれ[#「あれ」に傍線]に、染《シ》め木綿《ユフ》をつかうたのも、右のはたっく[#「はたっく」に傍線]と似よつてゐる。白和栲《シロニギテ》・青和栲《アヲニギテ》の物さびしい色を神々しい物として、五色のしで[#「しで」に傍線]を遥か後れて世に出た物と思ふのは、却つてくすんだ色あひを喜ぶ、後世の廃頽した趣味からわり出して、物喜びをした、幼い昔の神におしあてたものと言はねばならぬ。
処が又、然《サ》る古代こがれでない人々から、近代風に謬られ相な、葬式の赤幡・青幡
前へ 次へ
全24ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング