肯はぬ若干の人が居ることも事實である。西洋にだつて、それはない訣ではない。だからと謂つて、いまだに此國では、女性をそんな風に縛りつけてゐた過去を脱却して居ないのだ、ときめてしまふのは、どうかと思ふ。現實においては尚幾分未決算の部分を殘し乍ら、理論の上では、夙くに卒業してしまつたといふ状態に、あるのではないか。
さう言ふ風に、知識が單に知識として、早急に受けとられる。うはすべり[#「うはすべり」に傍点]した理會が、世間の文化を、滑らかに經過させるけれども、「實」のない人生ばかりが、社會に堆積せられて來る。さう言ふ日本の文化である。
我々は、こんなにわかり[#「わかり」に傍点]の早い人間であつてはならないのだ。もつと深い理會を――もつと根のある人生を――今はだが、國人にこれを望むだけで十分である。
*
文學と、人生と、批評との關係が、さう言ふ風なのだから、我々の文學に、時としては文學を目的から逆行させよう、と言ふ――批評に行き逢ふことがある。さうして此が、とても/\強力に壓しかゝつて來る。
文學の愛好者としても、こんな批評を懷抱してゐる限りは、其文學を讀むことが徒らな享樂と
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