なつてしまふことが多いものである。
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日本の國で謂つても、さうだ。少くとも、源氏物語は、世界文學に伍しても、ひけ目[#「ひけ目」に傍点]を感じることがないと言つて來てゐる。私も、それはさうだと思ふ。だがも一つ、其然る所以を、説き明らめた人が居ない。それでは、却て源氏物語の價値を低くする樣なものである。もつと第一義的な批評が、出て來なければならぬ。
源氏を「誨淫の書」だの、「破倫の書」だのと言つて、まるで唾を吐きかけるやうな調子で、ものを言つた時代もあつた。而も、こゝ數年、そんな昔の考へ方が、くり返されて居た。如何に何でも、日本人が、日本の一流の文學を――出來れば、若い者に見せないですまさうとした態度は、よくないことである。精神力の衰へて居た證據である。そんな事でもしなければ、民族性格のだらけて來るのを、防ぐことが出來ない、と考へて居たのだと思ふと――さう言ふ世間の一員で、自分もあつたのだと思ふと、我ながら、可哀さうになつて來る。
*
自分の犯した罪の爲に、何としても贖ひ了せることの出來ぬ犯しの爲に、世間第一の人間が、死ぬるまで苦しみ拔き、又、それだけの
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