文學を愛づる心
折口信夫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)口説《クゼツ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)過去のみゆうず[#「みゆうず」に傍線]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)とても/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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文學を愛でゝめで痴れて、やがて一生を終へようとして居る一人の、追憶談に過ぎぬかも知れない。
        *
文學をめでゝ愛で痴れて、而も其愛好者の一生が、何の變化も受けなかつたものとすれば、その文學がよほど、質の違つたものだつたと考へてよい。さうでなければ、その人が變質的に隨分強靱な心を持つてゐたと言ふことになる。所謂文學の惡影響と言ふこともあるにはある。此は考へて見ねばならぬことだ。文學を愛して居ながら、ちつともわるい感化を蒙らなかつたと言ふ人は相當あつて、紳士として申し分のない生活をして居る。かう言ふ人の行き方は、堅實な態度と言はれて來て居る。
        *
だが、よく考へて見ると、古くから讀まれて來た書物で、ちつとも不健康な分子、有害な
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