明を加へさせて来てゐる。さうして、第一句から第四句に亘つて、長い序歌に為立てた訣なのである。だが、かうした形も、単なる類型の追求が、表面の合理性を持つて来たもの、と言ふことが出来るであらう。
二
――おひばおふるかに
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おもしろき野をば 勿焼《ナヤ》きそ。旧草《フルクサ》に、新草まじり 於非波《オヒバ》、於布流我爾《オフルカニ》(万葉巻十四)
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此歌に現れた文法は、「消ぬかに」とは、毫も交渉の認められない特殊なものに違ひない。唯「かに」の用語例の、古い確実性を保つてゐるものゝ一つである。「生ひば生ふるかに」が、其である。唯近代の理会からは、「生ひば、生ふる」の活用問題は別として、一つの疑問が残されてゐる。
まづ、人は此歌から感得する情調を分解して「生《ハ》えるなら生えるに任せておけ」と言ふ解釈を心に持つだらう。
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焼かずとも 草は萌えなむ。春日野は、たゞ春の「ひ」に、まかせたらなむ(新古今巻一)
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と言ふ歌は、即興歌として、執拗ではない処に、興味を感じさせるが、実際こ
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