を持つて居たと言ふ点を説く事に進んだのである。さうして呼応と言ふ習慣が、どう言ふ意義を、国語発達史の上に持つて出て来たのか、其と同じく、条件文省略が、其気分的欠陥を補ふ為に、幾度も敷衍を重ねて行く事を述べた。畢竟国語における副詞句の発達は、古ければ古いほど、文章的であつた。さうして、其が固定に固定を重ねて単純な所謂単語としての副詞を用ゐる様になつた。さうした事が、可なり早くから進んだ文献を持つた民族の言語的遺産の上にも、窺ふ事が出来る、と言ふ事を示したかつたのである。
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……その波のいやしく/\に、わぎも子に恋ひつゝ来れば、あごの海の荒磯の上に、浜菜つむ海部処女《アマヲトメ》等が、纓有領巾文光蟹《ウナゲルヒレモテルカニ》、手に纏《マ》ける玉もゆらゝに、白栲の袖ふる見えつ。あひ思ふらしも(万葉巻十三)
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決して、単に纓有領巾文だけを照るかにで受けたものではなかつた。尠くとも、あごの海以下の句は、最初は詞章を構成する筈であつたのが、卒然として、「かに」によつて、副詞句化せられたのである。かうした長い副詞句が、元は文章であり、又、其が為に、文章的
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