でなければならなかつた為の条件法を具へた副詞句が、次第に単純化せられて行つた。さうして「けなばけぬかに」が新しい発想法の上から「けなばけぬべく」と直り、更に「けぬべく」だけで訣る様になり、愈端的に、「露霜の」など言ふ所謂序歌的なものを全然ふり落す様になる、さうした径路は、まだ実は半分しか辿りきれて居ないのであつた。
こんな処で、一言するのは、大方のお心を混乱させる事になるだらうと思ふが、此だけは申し添へて、言ひ残した部分の註釈にもと考へる。かに[#「かに」に傍点]の「か」は、実は、所謂形容詞語根につく「み」「け」「さ」の「け」で、事実、「げ」でなかつたのである。同時に、「しづか」「かこか」「たしか」などの「か」でもあつた事である。さうして、さうした固定した附属辞のやうな形式化は可なり進んでからの事だと信じてゐる。
而も、此等は偶《たまたま》古代的詞章の、片影の固定したものを包含した、其さへも古い時代のものゝ中に見られるのである。殆全部が、新しくなつた中に、ほんの少し俤を止めたもの、と言ふに過ぎない。だから、我々は、その文法的職分を説くに十分な材料を持たなかつた訣であるのだ。だが、かうし
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