、殆悉く「おもしろし」にも、「かなし」にも、「うれし」にも、何にでもつく事を予想して、すべてを省略してゐる。さうして、「あはれなり」「あはれの……」「あはれなる……」など言ふ風に用ゐられる。だから、「あはれ」その語の含蓄自身が、広い様に見えるのだ。此などは、馴れ過ぎて問題にすらならない。皆「あはれ」独自の用語例と考へてゐる。
又譬へば、「あさましく」と言ふ副詞形においても、皆其下に来る叙述語を省いて、この修飾語だけで気分を十分に出して居る。更に其を含んだ形として、「……あさまし」と文を綴める。「たまげる程……だ」と言ふ、気分には、悲しさもあり、情なさもあり、醜さもあり、嬉しさもある。其が段々近代の「情なさ」を表す傾向に、次第に用語例が統一せられて来たのだ。又譬へば、「わりなく」「わりなし」の場合でも、さうである。多くは、此下の叙述語を省いて、其を直に気分的に思はせる習慣になつて、遂には其自身に、ある意義が加り、固定する方に傾く。
「なか/\」なども、とてもかうした例を多く持つてゐる。もつとひどいのは、「うたて」である。

     七
       ――うたて

「うたて」は、副詞形と
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