――なにせむに
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しろ金も、黄金も、珠も、奈爾世武爾《ナニセムニ》 優れる宝。子に次《シ》かめやも
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万葉巻五の近代的な作品中でも、殊にもてはやされてゐる歌である。が、此を果して文法的の論理を逐うて、説いてくれた人があるだらうか。山田博士などには、既にあるかも知らぬが聞かない。「なにせむに」は、「何をしように」と言ふ素朴な言語情調から、無益とまで説かなくても、放棄に値するものと謂つた解釈をしてゐるのだらう。だが、此用語例の場合は、「とも」とは正反対に、却て、形式上に、古い痕跡を止めてゐるのである。「なにせむに」は「何に」と同じである。「せむ」は「何すれぞ」「何すとか」「あどすとか」などゝ同じく、近代の「何しに」「どうして」などに通用する「す」で、不定詞の意義表現を助ける「あり」に代るものである。だから、「何の為に」位の語気の、聞える時もあるのだ。
同じ憶良の同じ理論の長歌では、「世の人の尊み慕ふ七|種《クサ》の宝も、我波《ワレハ》何為[#「何為」に白丸傍点]、わが中の産れ出でたる白珠のわが子|古日《フルヒ》は、……」「なにせむ」と訓めさう
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