ては、習熟句の後に来た感じが、満足させるのだらう。
其上しかも、力強い対句まである点に、注意せねばならぬ。「忍阪の……」でも、習熟した語気の上に、人に誨へ導く様な語気は、諺に近いのである。其に力を強める所の対句を負うて居る。「八田の……」も「笹葉に……」も、皆他の句につく序歌らしいものを負うてゐるが、実は各自ら、其に聯絡して居たのである。

     五
       ――と  も  その二

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漣《サヽナミ》の滋賀の大わだ よどむとも、昔の人に またもあはめやも(万葉巻一)
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所謂条件文の型を以て、簡単に此を説かうとしては、当らない。恐らく「滋賀の大曲かくうちよどめり。されども、よどまず(よどまざる如く)は、昔の人に復逢はめや」と言ふ意義の第一表現が、此歌の下句から見られるのである。第二次的統一が、更に呼応的文法を形づくつた。「とも」と呼びかけてゐるから、「またもあはめやも」で応じた形になる。だが其は、意義においてなり立たない。「よどめども」と呼びかけねば、現実の、船遊びに儲け備へた様な、静かな湖面を表す事にはならない。畢竟此「とも」は、
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