推す訣である。つまり、「諺」又は「前詞章」を想ひ、其飛躍転用する方法を採つたのだ。
[#ここから2字下げ]
「『やまとべに にし吹きあげて雲ばなれ』曾岐袁理登母《ソキヲリトモ》」我忘れめや(記)
「山越えて海渡る騰母《トモ》」おもしろき新漢《イマキ》のうちは、忘らゆましゞ(紀)
「大だちを 誰佩きたちて ぬかず登慕《トモ》」すゑはたしても、あはむとぞ思ふ(紀)
[#ここで字下げ終わり]
此等も序歌と言へばそれまでだが、諺類似のものを思はせる言ひ方で、その中、「大だちを」の例で見ると、「大だちを……抜く」と言ふのから転じて、と言ふ如くにして「ぬかずとも」と言ふ事になつて居る。
かうした「とも」の、次第々々に助辞的に固定した用語例を持つて来る過程には、記紀の極めて古い例がある。其は必しも、古代の歌の順序が、其成立の順序を示さないからである。だが同時に、其等の例の中に、今日の直観に、極めて近い相似たものがある。
[#ここから2字下げ]
……むら鳥の我が群れいなば、ひけ鳥の我がひけいなば、泣かじとは汝《ナ》は言ふ登母、やまとの一本薄 うなかぶし汝が泣かさまく 朝雨のきりに立たむぞ……』(記)

前へ 次へ
全33ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング