た事を思はせて居る。其うち、殊に山河を対立させたものが、尤好みに叶うたと見える。さてその所謂「山川隔る……」と言ふ風俗諺[#「風俗諺」に傍点]のもあるが、と言ふ意味を含めて居るのが、「山川を中に、へなりて遠くとも」である。だから第一義としては、「山川を中に、へなりて遠し」と詞にありとも、我らは遠からず、と言ふ内容を見ねばならぬ。第二義の飛躍が、『「山川を……遠からず」して、近く思ほせ』と言ふ事になるのだ。
必しも純粋な諺でなくても、同じ様に考へられるものなら、何でもかうして、「とも」を以て、受けることになるのだ。さうして、此「とも」の受け方の特徴は、諺的の詞句が、固定した形のまゝでなくてもよい事で、自由な発想や、理会や感情を加味してもよい処にある。つまりは、前型を近代式に言ひかへて、さし支へない点があるのだ。
さうした習慣が、此と同様な方法を分化せずには居ない。必しも古来の詞章・故事熟語的のものでなくとも、任意にさうした発想は出来る訣である。「にほとりの息長川は絶えぬとも」などの場合が、其である。必しも息長川に対して、「絶ゆ」、「あす」など言ふ語句が来なくとも、他の川について言ふ類型で
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