一種のわき[#「わき」に傍線]役なのであるから、前して[#「前して」に傍線]とは、別人でなければならぬ訣であるが、役として重いものなので、いつかして[#「して」に傍線]方が、其両方を兼ねてしまふ様になつたのだと思はれる。
能楽の新作が、幸若舞ひの影響を受けた適切な例は、修羅ものである。修羅物を見ると大抵、組織は同じでも、現代の生活――当時の武士の生活の写生――に近いもので、さうしたものが面白がられた結果、従来のものとはだん/\に、離れて行く傾向を持つてゐた事が、明らかに見られるのである。
七 翁と三番叟
能楽で重要なものになつてゐるのは「翁」である。明治になつてからは、年の始めと、新築の舞台開きとだけしか演らなくなつたが、江戸時代までは、興行日数のある限り、毎日これを演つたのである。明治以後、所演が尠くなつた訣は、役者がものいみ[#「ものいみ」に傍線]の生活を嫌ふ様になつたからである。要するに、翁を毎日演つたと言ふことは、此があらゆる演芸種目を超越したものであり、どの能にも深い意味を持つてゐる。言葉を換へて言ふなら、すべての能が翁の副演出だ、と言ふ事になるのである。
翁は
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