も忘れて了ひ、高足をさへ忘れかけて、手に持つて歩くほどのものであつたが、田楽能だけは覚えてゐた。此点で極めて、古色蒼然たる感じを与へたが、とりわけ暗示に富んでゐると思つたのは、番毎に「もどきの手」と言ふことがくり返されてゐる事であつた。まじめな一番がすむと、装束や持ち物など稍、くづれた風で出て来て、前の舞ひを極めて早間にくり返し、おどけぶりを変へて、引き上げるのである。我々は此を見て、日本の芸能が、おなじ一つのことを説明するのに、いろ/\と異つた形であらはし、漸層的におなじことを幾つも重ねて来た事実を、よく感じることが出来たのであつた。
併し、かうした事のくり返されるのは、何故であつたらうか。根本は、日本の宗教が極めて象徴的なものである為に、其を説明するのに、いろ/\と具体的な形で示す事が必要であつた。さうしてそれには、いろ/\な現し方があつた。いろ/\な現し方で、一つの事を説明して行く中に、姿・形が変ると同時に、だん/\大きく育つても行つたのである。そこに、日本の演芸の発達があつたので、主たる一人が発言し、動作したことを、いろ/\な方法で説明して行つた。要するに、日本の芸術はその発生
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