例で見ても、反対する・逆に出る・非難するなどの意味を持つたものばかりである――が、古くはもつと広い意味があつたと思はれる。尠くとも演芸史の上からは、物まねする・説明する・代つて再演するなどの意味を持つ、説明役であつた事が考へられる。猿楽に於けるをかし[#「をかし」に傍線]は、此から変転してゐると見られるのである。
をかし[#「をかし」に傍線]は、をかしがらせることから言ふのだとするのが、一般の解釈の様であるが、実は、他人の領分にまで侵入するからのをかし[#「をかし」に傍点]で、犯しである。勿論これにも、からかひ[#「からかひ」に傍点]の意味を持つた用語例もある。平安朝の用語例で、をんなをかし[#「をんなをかし」に傍線]などゝ言うたのは、女をからかふ[#「からかふ」に傍点]ことで、今日警察の厄介にならねばならぬやうな意味の事を言うたのではない。
併し、猿楽に於ける此役名には、もどき[#「もどき」に傍線]と同様、説明役の義があつたらしい。狂言と言うたのは、興言利口などゝあるやうに、言ひ立て・語りの義から出た名称で、此に狂言の字を当てたのは、其言ひ立て・語りに、をかし[#「をかし」に傍点]味
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