某」と言ふ所だ。日本語琉球語の近接性から言へば、「何某かなし」は、さうした「かなし何某」の逆語序だと言つてよい。さうして旧語序によつて出来た語が、それ自身時代を経て、語序は語序のまゝに進んで行つた言語情調を経た訣である。かう言ふ相違が、同族どうしの間の分化状態を示すものなのである。
日本語では、おもひ[#「おもひ」に傍線]を接尾語風においては、理会が出来ない。「思ふ何某」「思ひ何」といふ。其が逆語序で、「何某思」といふ風に表現せられて、童名の「何々思」「何思加那志」となるのである。だから、此「思《モイ》」も逆語序である。

     三 按司

按司系の語については、語序の上の考へはまだ纏つてゐない。唯女性の按司は、按司といふ時は、かはりはないが、その対語のちやら(<かわら)をいふ時は、女《ヲナ》ちやらと称した。又、あや按司しられ[#「あや按司しられ」に傍線]とも言ふ。此場合は、按司部――諸侯に当る――の室である。あや[#「あや」に傍線]は君真物《キンマモン》出現の時、女按司部《ヲナチヤラベ》は、「綾の衣を著たから」と、女官御双紙にはあるが、危い説だ。あや[#「あや」に傍線]は国王の夫
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