には、馴れ/\しい感情で呼びかけるのだから、熟称とも言ふべきものとして童名のあと[#「あと」に傍線]につくものと固定化させた。此が尊称と熟称とに分れたゞけの事である。熟称なるが故に、語根だけになり、尊称なる故に正式にかなし[#「かなし」に傍線]といふ形を持ち続けて行つたのだ。其には今一つ、日本の愛すべきもの[#「愛すべきもの」に傍線]と言ふのと、琉球の尊いもの[#「尊いもの」に傍線]といふのとでは、おなじかなし[#「かなし」に傍線]、かな[#「かな」に傍線]が、心に融合しては受けとれない。其には、も一つの感情の流れがある。
かなし[#「かなし」に傍線]名のついた女君の中、注意すべきは、伊平屋《イヒヤ》の阿母嘉那志《アンガナシ》である。尚円の姉の系統をつぐものとして、離島女君の中第一に置かれてゐる。女性に対する親称で、目上に言ふ。母、伯叔母の義。あんがなし[#「あんがなし」に傍線]はかなしあも[#「かなしあも」に傍線]の逆語序である。
かなし[#「かなし」に傍線]は可愛い[#「可愛い」に傍線]だが、尊敬すべきもの[#「尊敬すべきもの」に傍線]と直に変化したのではない。思ふに「神によつて愛
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