して、其家での伝へだらう。童名は近代に到るまで、正式にはかね[#「かね」に傍線]を敬称語尾に持つてゐて、男女に通じてゐる。といふよりも、元から区別のなかつたものと見るべきであらう。
日本の古語中世語に渉つて、かなし[#「かなし」に傍線]はかはゆい[#「かはゆい」に傍線]・いとしい[#「いとしい」に傍線]・愛すべきもの[#「愛すべきもの」に傍線]或は繊細なものを意味してゐた。糸を言ふかないと[#「かないと」に傍線]略してかな[#「かな」に傍線]、蛇に似て繊細なるが故のかなへび[#「かなへび」に傍線]はとかげ[#「とかげ」に傍線]であつた。娘の名にもかな[#「かな」に傍線](半固有名詞)が多かつた。幼童の鍾愛に堪へぬ者をかな法師[#「かな法師」に傍線]と言つた。かなし[#「かなし」に傍線]は古い形容詞であり、かな(かね)はその語根だつたのである。琉球王族等の童名の「金」は先祖金丸王の金と関係してゐるのだ。が、固よりかなし[#「かなし」に傍線]と近接した関係から、敬称と童名とに残つた訣だ。恐らくあらたまつた[#「あらたまつた」は太字]感情を添へて言ふことを続けたのが、敬称になつたもので、一方
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