なかつた筈で、昔の君主なども、追号が多い。唯、童名《ワラベメ》――と言ふより通称――に、字を宛てゝ、しかつめらしく見せたものゝ多いことは、既に東恩納寛惇氏・伊波普猷氏らの研究で明らかになつてゐる。地名や、家名から、姓に変つて行つたものゝ多いことは疑ひがない。
琉球王宮廷は、一つの特殊な民俗圏を画して、沖縄本島自体や、島々の民俗に対して居る部分が多い。固定した知識として、極めて古いものを、文献的にも、伝承的にも保存してゐた。その中でも、さうした知識の維持機関のやうになつたのは、宮廷及び其に附属してゐた島々の巫女――を綜合した、女官(大巫)の信仰の上にあつた。私は此から、幾つか、例をあげて行きたい。

     二 特殊な意義分化の例としての「かなし」

敬称の接尾語の、人間に対して言ふ最高いものは、極めての古代は別だが、さうした統一の行はれるやうになつてからは、「かなし」が一等上級のものゝやうである。国王も妃・嬪も高巫も大体おなじ称号であり、之にならつて王族たちも、其に敬称を統一したやうだ。更に古くなると、まち/\で統一してゐないやうだが、素朴な姿の見えるものは、きみ[#「きみ」に傍線]
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