たける」と正語序時代なら言ふ所であらう。これは、讃称を二つ持つた神名である。ひこ[#「ひこ」に傍線]とおなじ位置にあるたけ[#「たけ」に傍線]は、語頭にある時の形で、語尾に来る時はたける[#「たける」に傍線]と言ふのである。たけ[#「たけ」に傍線]・わか[#「わか」に傍線](稚)など、性格表示と、讃称とを兼ねた語頭の語が、語尾に廻ると、「……建《タケル》」「……別《ワケ》」と言ふ風に、古い姓《カバネ》のやうな感覚を持つて来る。さてこゝに、神名らしい感覚を持つものをあげて見たい。
神功皇后紀に、「七日七夜に逮びて、乃答へて曰く、神風伊勢国の百伝度会県《モモツタフワタラヒカタ》の析鈴五十鈴宮《サクスズイスズノミヤ》に居る神、名は撞賢木厳御魂天疎向津姫《ツキサカキイツノミタマアマサカルムカヒツヒメノ》命……」と言ふ名のり[#「名のり」は太字]をはじめに、幾柱の神が出現して来る。此最初に現れるのは、天照大神の荒魂であると言ふことになつてゐる。此条の日本紀には、一書があつて、別の伝へがある。「……三神の名を称《ノ》りて、且重ねて曰はく『吾が名は、向匱《ムカヒツ》男聞襲大歴五御魂速狭騰尊なり』……
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