」と言ふのである。此神名は、本書と一書で、別々の二様の男女の神名になつて現れてゐる。が、共通の部分の多い語組織である。向匱=向津(ムカヒツ)・五御魂=厳[#(ノ)]御魂(イツノミタマ)・速狭騰=天疎(ハヤサカリ=アマサカル)此だけ共通で、神の性が本書では姫、一書では向匱男[#「男」に白丸傍点]とあるから男神なのであらう。此点は、同神が女性と男性とに別れて現出したものと見るべきで、問題はない。それと、聞襲大歴(キキソオホフ?)と撞賢木《ツキサカキ》の句、尊[#「尊」に白丸傍点]・姫命[#「姫命」に白丸傍点]の語尾、この二つが対照して見える所である。聞襲大歴と撞賢木は一方は疑ひなく、つきさかき[#「つきさかき」に傍線]だが、一方はどうしても、さうは読まれない。つきさかき[#「つきさかき」に傍線]と言ふ枕詞式の句が、一方にも同じくあるが、こゝだけ非常に違つて、他には別に変りはない。唯認められる変化は神名の語序が、よほど入れ違ひになつてゐる点である。かうまで変つてゐるのは、記憶や記録の錯乱とは言へない。却つて両方ともある確かさを示してゐる。
本書流に整頓して見ると、

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