敬称として用ゐられた。某位以上を朝臣と敬称すると言ふやうな風は、かう言ふ傾向から誘はれてゐるのであらう。
元来、敬称を示すことを目的とするものではなかつた姓が、氏名から放されて、人名の下につくやうになる。此は単なる語序変化に過ぎない。ところがさうなると、人名に対して、姓が個的な関係を深めて感じさせる。
かうして、姓と氏と名との位置の動いて行くのは、社会感覚の変化によるやうに見えるが、根柢の理由は、語序変化にある。さうした語序と敬語感覚との交錯交替する様子が思はれるのである。
傍丘の如きは、半固有名詞と言ふ事も出来るもので、日常常用物の表現例として、下簾・韈・梯立のやうに残つたものと、一様に見てよからう。

旧語序によつて、表現せられてゐた時代――或はさう言ふことが、旧語序を持つ言語族に偏して甚一方的な言ひ方であるかも知れぬ。――は、相当に古い過去で、我々が想像する古代とは、状態が違ふやうである。さうした語序の語が、普通に使はれてゐた状態は、古代文献によつて印象せられてゐるばかりで、我々の想像を超越したものと思はねばならぬ。その後の文献には窺はれないほど、連絡のきれたと思はれる姿があるや
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