語形がきまると、却つて一方の外は訣らなくなつてしまつたものであらう。むざね[#「むざね」に傍線]でなくてはならないことになつたらしい。むざね[#「むざね」に傍線]と言ふ古語が、現存の文献には見られなくなる頃、――或は、唯多く行はれなくなつたゞけで、地方的にはあつたかも知れぬが、之に代り、又それから幾分意義が踏み出したと見える語に、さうじみ[#「さうじみ」に傍線]がある。正身(シヤウジン)といふ漢語を国語化してしやうじみ[#「しやうじみ」に傍線]と言つたのである。其が音韻変化してさうじみ[#「さうじみ」に傍線]と言はれるやうになつて、如何にも国語らしい情調を持つて来た。当然むざね[#「むざね」に傍線]と交替するのに適当な機会があつて、漸くふり替つたものと見てよい。国語化しようとする努力の著しく現れた語である。正身は意義から言へばむざね[#「むざね」に傍線]であり、語を解体すれば、さねみ[#「さねみ」に傍線]である。必しも、さうして分解的に語は造られてはゐないのだが、語の成立に、さう言ふ意識を含んでゐるのは事実だ。精神から見れば、ある時期が、語序をとり替へさせる力になつてゐると言へる。語序
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