下に小地名を並べるのではない。布留《フル》が多いから、石[#(ノ)]上の傍の布留と言へば間違ひはない。志賀と言うても、筑前にも名高い地があるから、漣《サヾナミ》と地名を連呼する。此は、沖縄には今も行はれてゐる。其でも、地名の方は、連呼法の記憶や実用が乏しく残つた為に、大した混同はなかつた。
枕詞の使用久しくて、其をうける語との結合が密接になりきつてしまふと、枕詞が実質の内容を持つことは、万葉あたりにも見える。たらちね[#「たらちね」に傍線]・あをによし[#「あをによし」に傍線]・ひさかた[#「ひさかた」に傍線]などは、其である。
枕詞は、同音異義を区別する為に出来たと言ふ説をなりたゝす為には、あまりに痕跡もない。だから極めて古い時代に、其実地に行はれた期間を考へ据ゑなければならない。枕詞は段々内容の方に進んで行つて、ひさかたの[#「ひさかたの」に傍線]と言へば、天に属する物には自由につくやうになり、ぬばたまの[#「ぬばたまの」に傍線]は黒色の聯想が、夜に及ぶことになつた。

     三

枕詞が日常対話に用ゐられたことは、考へられない。託宣の詞に限つてあることであつた。其が、叙事詩・
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