、一本の木の下枝・中枝・末枝と言ふ風に述べて行く。どこを船で通り、次にはどこの村が見え、其また次にはどこにつき、其先のどこへ行つたといふ風に叙述してゐる中に、描写性が語から促されて出て来る。
[#ここから2字下げ]
ますらをが さつ矢たばさみ 立ち対ひ、射る的方《マトカタ》[#「的方《マトカタ》」に傍線]は、見るにさやけし(万葉巻一)
橘を守《モ》り部《ベ》の家の門田早稲 刈る時過ぎぬ[#「時過ぎぬ」に傍線]。来じとすらしも(万葉巻十)
[#ここで字下げ終わり]
後の歌などは殊に、約束の秋即稲刈りの時節が過ぎたのに、と言ふ風に見えるが、実は「時」を起すだけなのは極端である。
[#ここから2字下げ]
葛飾《カツシカ》の真間《マヽ》のてこな[#「てこな」に傍線]がありしかば、真間のおすひに浪も[#「真間のおすひに浪も」に傍線]とゞろに(万葉巻十四)
[#ここで字下げ終わり]
此なども、耽美派の真淵は、浪さへ処女を讃へに来たと言ふ風に誤解した程であるが、唯「とゞろに」を起す為の譬喩序歌である。
かうした方法が段々簡潔になり、譬喩としての効果を確実に持つて、枕詞が定まつて来たのである。譬喩でも
前へ 次へ
全16ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング