吾が群れ往なば、ひけ鳥のわが引け往なば、泣かじとは汝《ナ》は言ふとも、やまとのひと本薄《モトスヽキ》、うなかぶし汝が泣かさまく、朝雨のさ霧に立たむぞ……(古事記上巻)
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神代の歌と伝へるけれど、譬喩としては進んだものである。殊に後の二つは時間も空間も写されて居る。此等は、枕詞と名づけられて居るが、かうした譬喩ばかりから枕詞が出来たとは極められない。
枕詞から序歌が出来たと考へる人が多い。併し、一考を要する。単純から複雑になるのではなくて、世界の理法では、複雑が単純化せられて行くのが、ほんとうである。わりに自由な、かなりの長さの序歌から整うて来たのが、枕詞なのだ。
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……さ寝むとは われは思へど、汝が著《ケ》せる おすひの裾に つきたちにけり(古事記中巻)
こもりくの泊瀬の川ゆ 流れ来る竹の いくみ竹 よ竹、本べをば箏に造り、末べをば笛に造り、吹き鳴《ナ》す御諸《ミモロ》が上に 登り立ちわが見せば、つぬさはふ磐余《イハレ》の池の みなしたふ 魚も 上に出て歎く(継体紀)
やすみしゝわが大君の、帯ばせる さゝらのみ帯の 結び垂れ 誰やし人も 上
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