、比・興と言ふ程の区別もない。稀に象徴的な効果を持つて居るものもあるが、大抵単なる譬喩歌である。
つまりは、元々一文章の大部分を占めて居た部分が小さく約《つづま》り、其が新しい意義に甦つたことになるのである。
序歌・枕詞につけて言はねばならぬのは、縁語・かけ詞である。
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ちはやびと 宇治の渡りに、渡り瀬に立てる梓弓檀弓。射発《イキ》らむと心は思《モ》へど、射捕らむと心は思へど 本べは君を思ひ出 末べは妹を思ひ出、いらなけくそこに思ひ出、かなしけくこゝに思ひ出、いきらずぞ来る。梓弓檀弓(応神記)
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弓の材料なる梓と檀とを譬喩に使うたのである。さうして木の縁から、伐る・採るといひ、本べ・末べと聯想してゐる。既に縁語としての為事をしてゐる訣だ。序歌・枕詞の効果が、対立的に現れる時は、縁語が出来る。
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武蔵野に占《ウラ》へ、象《カタ》灼《ヤ》き、まさでにも告らぬ君が名、表《ウラ》に出にけり(万葉巻十四)
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まさ[#「まさ」に傍線]は卜象の正しく著しい意の語。其にまさで[#「まさで」に傍線]と言ふ副詞とを
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