為事であつた。死んだ一様式を文の上に活して来たわけである。
[#ここから2字下げ]
秋|葱《キ》の甚重《イヤフタ》ごもり 愛《ヲ》しと思ふ(仁賢紀)
山川に鴛鴦《ヲシ》二つ居て、並《タグ》ひよく並《タグ》へる妹を。誰か率《ヰ》にけむ(孝徳紀)
[#ここで字下げ終わり]
此等は単に譬喩であつて、古い意味の枕詞ではなかつたであらう。其が、藤原・奈良になると、両方から歩みよつて了うたのである。
枕詞と言ふ語は、後世のものであるが、古い形のものと、新しい形のものとを分けて言ふ場合、おなじく枕詞と言ふ名で扱はれて来たものゝ間にも、区ぎりは置かねばならぬ。枕詞と言ふ名はよくない。唯仮りに用ゐる外はなかつたのだ。だから、枕詞の本体は寧、道行きぶりや、物尽しの方へ伝はつて行つてゐるのであつた。
日本の律文には、古くから「比」と「興」とはある点まで分立して進んで居たのであつた。序歌・枕詞の方は、気分を示す方面へ進んだ。
[#ここから2字下げ]
みつ/\し 久米の子らが 粟生《アハフ》には、かみら一本。其根《ソネ》がもと、其根芽《ソネメ》つなぎて、伐ちてし止まむ(神武記)
[#ここで字下げ終わり]
譬喩の
前へ 次へ
全16ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング