り、三とほりに変る不思議な虫が居ります。この虫を御覧になつて入らつしやつたのです。よくない心は全然おありになりません。かう申しあげたら、天子様が、さうか、そんならおれも不思議と思ふから、見に出かけよう、とおつしやつて、宮廷から淀川を溯つてお出でになつた。ぬりのみ[#「ぬりのみ」に傍線]の家にお著きになつた際、其ぬりのみ[#「ぬりのみ」に傍線]自分の飼つてる三通りの虫を、皇后にさしあげた。さて、天子は、皇后のいらつしやる御殿の方にお立ちなされて、おうたひなされたのは、
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つぎねふ山背女《ヤマシロメ》の 小鍬持ちうちし大根。
爽快《サワサワ》に汝《ナ》が言《イ》へせこそ、うちわたすやがはえなす[#「やがはえなす」に傍点]、来入《キイ》り参来《マヰク》れ
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この天子と、皇后とのお歌ひなされた六つの歌は、志都歌の返歌――又、歌返しである。
この外にも、まう一首、おなじ仁徳記に、志都歌の返歌が伝つてゐる。
古事記の順序で見ると、此で、皇后の御心が鎮ることになつてゐるらしいのである。其後に、皇后宮廷の饗宴に参上した氏々の女たちに、柏をとつて、御酒を賜ふ
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