を溯つて山代川(木津川)から綴喜の地に上られた。其から、故郷大和国葛城を望む為に、奈良山の登り口まで行つて引き返されたが、綴喜の韓種帰化人の豪族の家に滞在せられたと言ふ風聞に、高津宮の帝は、舎人|鳥山《トリヤマ》を迎へに遣された。
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山背《ヤマシロ》にい及《シ》け 鳥山。い及《シ》けい及《シ》け。わが愛妻《ハシヅマ》に い頻《シキ》逢はむかも
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又ひき続いて、丸邇臣口子《ワニノオミクチコ》を迎へにやられた。其に託せられた御歌、
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みもろの其高きなる おほゐこが原。』
大猪子《オホヰコ》が腹に在る きもむかふ心をだにか、相思はずあらむ
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も一つ、
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つぎねふ山背女《ヤマシロメ》の 小鍬《コクハ》持ちうちし大根《オホネ》。』
根白《ネジロ》の白臂枕《シロタヾムキマ》かず来《ケ》ばこそ知らずとも言はめ
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そこで、綴喜の宮に参つた口子《クチコ》、この歌を申し上げる際、どしや降りの雨が来た。雨にうたれ乍ら、御殿の前の戸に参りて平伏すると、やり違ひに後の戸に出ら
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