ウタ》の返《カヘシ》歌――葛城部の物語歌――を遺したのである。
「志都歌の返歌《カヘシウタ》」といふ名で、六首の歌が、宮廷の大歌所に古くから伝誦せられてゐた。さうして其一つ/\に古事記にある来歴が、順を追つて語られてゐたのであらう。その「志都歌之返歌」は、母胎として葛城部の物語を持つたことは、此後に述べる「叙事詩と名代部《ナシロベ》」に絡んだ推測を予《あらかじ》めすゝめて置く。

      宮廷詩の意義

古歌即、宮廷詩は、その来歴や、其歌詞をとつて名づけたものもあるが、其てくにく[#「てくにく」に傍線]による所の分類が多い。さうして後になる程、其々の部類――区画――に、新歌詞をとり入れた。本歌の外に、替へ歌が幾つとなく出来て来る訳だ。だから、記紀に伝はる其出来た場合の伝へや、其|主題《テマ》の傾向や、或は単にその名物などから、其々の歌のほんたうの来歴や、用途や性質は訣らない。まして大歌の末期とも言ふべき平安朝の状態によつてする、一切の判断などは、悉く無意味である。
静歌《シヅウタ》だとか、賤歌《シヅウタ》とか――一々理由は今説かぬが――直観式な解釈を語原に加へて見たところで、為方は
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