寿詞と恋歌との関係

ある種の考へ方をする人には、思ひがけないことかも知れぬ。古代日本の文学以前の詞章に、悲恋悲歌とも言ふべきものゝ多かつたことである。其と、も一つ意外なことには、配偶《ツマ》争ひの「物語」や、「物語歌」が、相当に伝へられて居た。配偶《ツマ》争ひと言ふ語は、少し不正確である。二人でその同性が、一人の異性を獲ようとして争ふと言つたことの外に、夫《ツマ》と婦《ツマ》とが争闘することも、「つまあらそひ」と言ふ語に這入る。だがさう言ふ繁雑《ヤヽコ》しい用語は避けた方がよい。前者を常識に任せて、「つまあらそひ」と呼んでおき、後者の中を、その姿によつて、別々の名をつけておく。配偶《ツマ》どうしの間に相闘ふ物語を、つまどひ[#「つまどひ」に傍点](求婚)、ねたみづま[#「ねたみづま」に傍点](妬婦)、つまさり[#「つまさり」に傍点](離婚)の物語と言ふやうに、大体三通りに画《クギ》り、配偶《ツマ》どうし安らかに相住むことが出来ないで、別れて暮すことを伝へるものを、つまわかれ[#「つまわかれ」に傍点](配偶別離)の物語と言ふ名にしておけば、凡は、共通した処、差別のある処も明らかに
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