げてと言ふ語で表したのらしい。かう言ふ風に、出来るだけの奉仕をするからは、客人たちも、「存分に無条件に、志をおうけ下されて」の意味を、「直《アタヒ》以て易《カ》はず」で示したのだ。代物で交易すると言ふ意識なくといふことである。餌我の市は、南河内石川のほとりの恵我の市である。「うまさけ」は枕詞、前段の酒の聯想から来たまでである。こゝでは酒の事は言はないで、たゞ恵我市で交易する様な気にはならず、「十分気をゆるして、無条件でお受け下さい」といふのである。「たなそこやらゝに云々」は、饗宴の楽しみを享受する様。志を賓客の納受した表出を見たいと望むのである。とこよたち[#「とこよたち」に傍点]は、長寿者たちの義で、第一義の常世《トコヨ》の国は、富と、命と、恋の浄土とせられた古代の理想国である。其処に住んで、時あつて、この土へ来る人あるを想像して、とこよ[#「とこよ」に傍点]と言つたのである。古来饗宴の賓客を、神聖なものとして、常世の国からの来訪者と考へて来たのが、わが国の民俗である。
此寿詞について、尚一つ言はねばならぬことが残つた。其は、文中に在る二つの地名である。出雲は、恐らく本国出雲ではある
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