地の凹凸なく葺かれてゐるのを見ると、気分の変化動揺なく続くことが察せられるとするのである。堅くひき結《ユハ》へた綱の結び目を、命の脱出を防ぐ結び目と見て祝《ホ》ぐのである。切り揃へずに、軒に葺きあました葺草の程度以上なる如く、此家あるじの富みも、際限はなからうと、讃美してゐる。
第二段は、かくの如く出来あがつた新室の作業に、共に働いた同族の人たちに呼びかけて、吾子たちと言つて、酒を勧めるのである。此酒は、新墾りの出雲の豊年の今年の稲を以て、浅甕に醸した酒だ。十分に飲んでくれる様にというてゐる。新室の祝ひには、共通の発想法で、労働を共にした様を思ひ返し乍ら、うたげ遊ぶのである。
後段は、客座に向つて唱へる詞で、恐らく謡《ウタ》に近いものであらう。舞人は、饗宴に必伴ふものである。主人の娘或は、家人が勤める役である。家屋の精霊の出て、賓客を讃美すると言ふ信仰から出たものであつた。鹿が農村の為に降伏して作物の妨げをせぬ事を誓ふ状を模する舞踊が、古く行はれてゐた。其が新室宴にも採用せられてゐるのであらう。角さゝげてと言ふのは、「あしびきの」以下が、序歌になつて来てゐる。手を投げて舞ふことを、ささ
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