つのりと[#「天つのりと」に傍線]と言はれるものがあつて、其が恰も初めの天つのりと[#「天つのりと」に傍線]の様に聞える様になつたものらしいことである。だが元来天つのりと[#「天つのりと」に傍線]と称すべきものは、別にあつて、伝来尊く、伝襲厳しかつたところから、記録にも上らず、終には永劫に亡びてしまつたものと思はれる。
恐らくさうした、呪術関係よりも、儀礼の起原に即した詞章でなかつたかと思はれる。譬へば、「天窟戸籠り」に絡んだ詞章、「橘[#(ノ)]檍原《アハギハラ》の禊《ミソギ》」を伝へた詞章、「天つ罪の起原」、「すさのをの尊|神追放《カムヤラヒ》」に関した詞章、かう言ふ種類のものであつたらしく思はれるのである。が、今日「天つのりと」として推定することの出来るものは、先に言つた短章の呪術の章句ばかりである。即、我が文化の悠遠なることは、天つのりと[#「天つのりと」に傍線]に於いても、然《シカ》第何次かの変化の末を存してゐるものと思はれるのである。
大殿祭《オホトノホガヒ》の祝詞に見える、「……汝屋船《イマシヤフネノ》命に、天津奇護言《アマツクスシイハヒゴト》を以ちて言寿《コトホ》ぎ鎮め
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