ある。威力ある神の発した詞章の力によつて、対者の霊魂を圧する効果を表すのりと[#「のりと」に傍点]とは、意義において違つて居る。
かうして見ると、いはひごと[#「いはひごと」に傍線]がのりと[#「のりと」に傍線]に対するものゝやうに聞えるが、寿詞《ヨゴト》こそ、のりと[#「のりと」に傍点]の対照に立つべきものであつた。寿詞の目的が、非常に延長せられて、鎮魂から、融けあひ、ひき立て、皆此いはひの技術によるものであり、いはひ詞の効果として現れるものである。畢竟霊魂の遊離を防いで、斎《イハ》ひ鎮《シヅ》めるのだから、怒り・嫉みを静平にし、病気を癒し鬱悒を霽らす――霊魂を鎮めることゝ、呪ひを行ふことゝが、一続きの呪術だつたのである。
神賀詞
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……さて、お親しい御先祖の男神・御先祖の女神の仰せられたことには、「汝あめのほひ[#「あめのほひ」に傍線]の命は、為事として、尊い御方の――尺度で言へば、寸法長いと言つた御生命を、壁岩の如く、床岩の如く、鎮斎し奉り、凜とした御生命として、詞章に言うたとほりの効果を顕し申し上げよ」と御命令なされたそのほひ[#「ほひ」に
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