と謂はれるものゝ、所業である。古い詞章が伝誦の間に、錯誤を教へてゐることもある筈だからとの虞れがあつて、古詞章を唱へる時、其に併せて唱へておく短章の詞句があつたやうである。其詞句の神は、誤つた詞章を誦したことに対しての懲罰を緩めて、錯誤の効果を直きに返すといふ信仰から「なほび」(直日)の神と称してゐた。此は皆ことだま[#「ことだま」に傍点]信仰の範囲にあることである。さうした少数の詞章が、次第に数を増した世の中になつても、愈《いよいよ》詞霊信仰は、盛んになつて行つた。
だから詞霊を考へることは、発言者たる神の考へが薄くなつて来た為だと言ふことを、まづ考へねばならぬのである。
時を経て、世の中は複雑味を加へ、古来伝承の神授の詞章だけでは、如何に意義を延長して考へ、象徴的な効果を予期して見ても満足出来ぬ程、神言の対象となるべき事件が、こみ入つて来る。其を、宮廷に限つて言つても、宣命や祝詞の前身たる呪詞が、非常に多くなつて来、其が次第に目的を分化し、人に聞かすもの・精霊に宣るもの・神にまをすもの・長上にまをすものなど言ふ風に、複雑多端に岐れて行つた。
だから、宣命祝詞の類の詞章が、多少古色を
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