、長上の理会を求める所謂くどき[#「くどき」に傍点]式な部分が、次第に発達して来てゐたからだ。早く分離しても唱へ、或は、関係ある「本《モト》」――本縁――の詞章を忘れたものが、多く行はれる様になつた為だ。かうして、游離した歌諺が、次第に殖えて行く一方だつた訣だ。然る後、これの「本」たるべき詞章を求める努力が、遂にかうした語部の職掌の中に、一分化を起す様になつたのだ。だから、語部の物語が、古代の歌諺を必しも正しく元の形に復し、適当な本章の中に納めたとばかりは、思はれないのが多かつた。却て間違へたものが多かつたゞらう。此は、記・紀その他を見ても、歌諺と、その成立の事情を説く物語とが、ちぐはぐ[#「ちぐはぐ」に傍線]で、緊密を欠いた場合の多いことを以ても、思はれよう。
語部の職掌はともあれ、歌及び諺に就いて考へる必要がある。歌は、其語原から見て、理会を求めて哀願し、委曲を尽して愁訴する意味を持つうたふ[#「うたふ」に傍線]と言ふ語の語根である。此にも、長い説明を加へる暇がない。唯、抒情的発想の根柢が、長上に服従を誓ふ所にあることを言ふに止める。つまり、寿詞の中から発達したものとして、歌は、寿
前へ 次へ
全39ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング