詞の緊要なる部分で、精霊又は、所動の人間の側の表白として、生じた為の「くどきごと[#「くどきごと」に傍点]」であることが訣ればよい。かうして叙事は、抒情を孕み、平面な呪詞から出た叙事が、立体的な感情表出を展開して来たのだ。
其と共に、諺について見たい。実は、歌も諺も同様なものと言へるが、成立の事情において、少々の区分がある。従つて、形式においても、歌とは違ふところがある。内容は勿論、その方角を異にしてゐる。諺は、社会的事象の歴史的説明であり、又其説明を要するものであり、或は、積極消極の両様における奨励であり、或は訓諭・禁止である。多く宗教的の基因を思はせる契約を含んでゐる。もつと適切に言へば、神の語なるが故の、失ふ事の出来ない伝承である。断片的な緊張した言語である。
諺の発生こそは、叙事詩以前から、叙事詩になつても、尚行はれてゐたと見えるもので、歌の発生する原因になつた、一つ前の形なのである。寿詞の元なる宣詞が、命令的表現である所から、さうした傾向を持つてゐるのだ。訣り易く言へば、宣詞の緊要部なる神の「真言」の脱落したものなのだ。歌よりも、とりわけ古く、断篇であり、原詞章不明のものが多
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