である。即、「風俗歌」・「風俗諺」の起原を明す、語部の物語である。「くにぶり」の歌及び、諺をして、威力を発揮せしめるには、其来由を説く事が必要である。其と言ふのは、長い詞章以外に既に、それの詞章の中から脱落した断篇が、古くから行はれて居た。其れの起原が神に在り、帝王に在り、英雄にあり、又は神聖な事件にあることを説いて、其語を諷誦することの効果を、増させようとするのである。語部の為事には、この意味のものがあつた事は、寧《むしろ》却て明らかな証拠がある。即、ある言語伝承に就いて、其初まりを説き証《アカ》す、即《すなはち》歌或は諺の「本縁」――背景たる事実――と言ふ事と、二方面の為事をしたものが語部で、一つは、族長及びその子弟の教養に、一つは儀礼の為に、歴史を語つたことになるのである。

      抒情詩

本縁を負ひ持つた歌・諺は、元々ある詞章から游離したものであつた。其が果して、其説く所の本縁の如く、ある語部の物語の中に、元来挿入せられて居たものか、どうかと言ふことになると、蓋然的には、事実だと言ふことが出来る。さうした事の行はれる様になつたのは、古く叙事詞章の間に、部分的に衷情を訴へ
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