のも、霊ごひの為である。又、仮死者の魂を山深く覓め行くのも、こひ[#「こひ」に傍線]である。魂を迎へることがこひ[#「こひ」に傍線]であり、其次第に分化して、男女の間に限られたのが恋ひ[#「恋ひ」に傍線]であると考へてゐる。うたがき[#「うたがき」に傍線]の形式としての魂ごひの歌が、「恋ひ歌」であり、同時に、相聞歌である。
かき[#「かき」に傍線]はかけ[#「かけ」に傍線]と文法上の形として区分ある様に見えるが、実はさして弁別のない時代の形であらう。賭《カ》けのかけ[#「かけ」に傍線]、「掛巻毛《カケマクモ》」などのかく[#「かく」に傍線]である。「かく」「かけ」は、誓占《ウケヒ》の一種で、神の判断に任せる所の問題を、両者の間に横へる――心に念じ、口に出して誓ふ――事である。神自身から与へられた問題を解くか、解かぬかによつて、神の成敗に従ふと言ふのだ。歌の含む問題を解決する事の出来なかつた場合は、屈服することを前提とした争ひである。古代の結婚は、闘争を条件にしてゐた。「つまどひ」の形に見えるかけ[#「かけ」に傍点]が、歌で以てせられると言ふのが、歌垣の古意であらう。
短歌
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