幾分咄し方を替へて見た為に、却て要を得ない事になつたと思ふ。其点、此まで書いたものゝ御参照を願はずに居られない。
精霊が、女性として考へられる時には、巫女の形を生じて来ることは述べた。日本の信仰においては、巫女は尠くとも、遠来の異人なる神に対して考へた、接待役の地霊であつた。さうして多くの場合、その神を歓待して還らせる役目を持つものと思はれてゐた。神主は、神その物の役に当る人格であるが、巫女は、神に仕へる意味においての、神職の最古い形である。そこに巫女の、唯の神職でない理由が明らかだ。
神と精霊とは、常に混同せられてゐるが、形式上には、明らかに区別を立てゝ置かねばならぬ。男性の精霊として見られる場合は、多く一度は抵抗することになつてゐるが、女性の場合には、除外例もあるが、大体なごやかに神を接待するものとせられてゐる。唯、最後的に服従する「とつぎ」を極端に避ける形が、文献上に沢山残つてゐることは、考へに置かねばならぬが。
神祭の儀礼が、社会上の習俗化しても、長く守られねばならなかつた。殊に結婚においては、近世においても、古い俤を保存してゐた。村の処女の結婚には、単式なのと、複式なのとがあ
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