するを要件としてゐるので「ほぐ」「ほかふ」は祝言を述べる事になるのだ。
かう言ふ風に呪詞の中に、掛け合ひの部分即、神及び精霊の真言が、自由に游離する形を生じて来る。此が、呪詞中、特に神秘な部分と考へられた為に、呪詞全体と等しい効果を持つものと思はれる様になるのであつた。尠くとも、延喜式祝詞に見える「天つ祝詞」なるものは、祝詞の中に含まれず、従つて今日存せないのである。其部分だけは、秘密として記録せなかつたのである。而もそのあるものは、略《ほぼ》、その形の想像が出来る。呪詞及び祝詞を誦する間にも、演劇的所作があつて、其時に、唱へる科白の様な部分があつた訣である。
後世の祝詞奏上は、単に朗読するばかりであるが、此間に、動作のあつた痕は尚考へられる。「ほぐ」「ほかふ」から出た「ことほぎ」「ほかひ」と言ふ語は、単に祝言を述べるだけではなく、明らかに所作を主としてゐるものであつた。而も、単なる舞踊ではなく、単純ながら、神・霊対立の形を基礎とした尾籠《ヲコ》なる問答或は演劇的動作であつたことは言ふことが出来る。

      相聞詞章

日本文学発生論を書くのは、これで十度に近いことゝ思ふ。其で、
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