来ないのである。
その間に言つてよいことは、此シテ[#「シテ」に傍点]・アド[#「アド」に傍点]対立者の語が、次第に有力になつて来て、歌の独立を為終せさせたと思はれることだ。つまり、宣奏両詞章の間に発生した、諺・歌とも言ふべき部分が、「歌」としての渾然たる発達を導いて、さうして、遂に歌ばかりの唱和・相聞と言ふ形を分化させたのだ。

      ほかひ

「ほかひゞと」又は、時としては、――後世の方言==ある時代には標準語だつたらう==を溯源することによつて、知られる――「ほぎひと(>ほいと)」と言はれてゐる語が、海人部曲その他の神人の教へとその儀礼なる祓除法と、其からその芸能としての歌・物語又は舞踊・演劇とを携へ廻つたことを示してゐる。謂はゞ、神の為の神部として、創立主のない、自由な部曲があつた事を示してゐると言ふことが出来よう。此民団は、人を創り主に持つ以前に、神を創り主としてゐたことを意味するのだらう。其と共に、その伝承する叙事詩――呪詞等――は、極めて自由に出入・応用することが出来たものであらう。海人部曲の伝承するものとして、海丈部《アマハセツカヒ》の「ことの語りごと」なる大国主
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