劇の類よりは、もつと時代の古い俤を留めて、単純なものであつたと思うてよい。構造の訣つて居る分だけ言へば、譬へば、海山幸の争ひである。
此は少くとも、農村の水を自由にしようと言ふ村の希望、其から、之を妨げる者を屈服せしめた、と言ふ古詞章の副演である。今一つ、野見宿禰の腰折れ田の伝説の生じた源なども、新室及び墓屋を造るに当つて、これに碍《サハ》る者を、永久に服従せしめて置く予備行事であつた。野見氏が、出雲宿禰の分派であり、出雲人が、建築及び墓作りに長じて居たことから見て考へられる。其と共に、日本演劇の古い姿が「田の水引き」の成敗を印象した事を示してゐる、と言ふ事も考へられる。詞章自身が叙事詩だから、此から演劇的要素を採れば、如何程でも、演劇的種子を求め出す事は出来る。併し、遥か後世の例――譬へば、最著しい狂言の如き、シテ[#「シテ」に傍点]・アド[#「アド」に傍点]を対立せしめるものに於いて、(ワキ[#「ワキ」に傍点]は、役者としての位置を示すもので、「役」に本義を持つものではない)――などから見ても、古代演劇を、今日の所謂神楽の様に、単純ながら、筋に幾様かの変化のあるもの、と見ることは出
前へ
次へ
全39ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング