本文学の、文学らしい匂ひを持つて来るのは、叙事詩が出来てからの事である。其叙事詩は、初めから、単独には現れて来なかつた。邑落に伝つた呪詞の、変化して来たものだつたのである。而もその呪詞は、此|土《くに》に生れ出たものとは、古代においては、考へられては居なかつた。即、古代人の所謂|海阪《ウナザカ》の、彼方にあるとした常世《トコヨ》の国から齎されたもの、と考へたのである。一年或は数年の間に、週期的に時を定めて来る異人――神――の唱へた詞章なのである。其が、此世界――邑落の在る処に伝へ残されたと考へ、その伝襲をくり返してゐる中に、形式も固定に次いで、変化を重ね/\して、遂には、叙事詩らしい形に、傾く様になつたのである。
私はこの呪詞の中に、二つの区画を考へてゐる。一つは、呪詞の固有の形を守るもので、仮りに分ければ、「宣詞」即、第一義における「のりと[#「のりと」に傍点]」である。神又は長上から宣《ノ》り下す詞章である。その詞を受ける者の側に、これに和する詞章が出来るのは、自然な事である。謂はゞ「奏詞」、古語に存する称へを用ゐれば、「よごと[#「よごと」に傍点]」である。而も、文献時代に入つて
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