尠くとも、文学意識の発生よりは、先《さきだ》つてゐる事は、事実だ。つまり、文学の要求が、文学を導いたのでなく、後来文学としてとり扱はれてよいものが、早くから用意せられてゐて、次第に目的と形態とを変化させつゝも、新しい文学意識を発生させる方に、進んで来てゐたのだ。其と共に、新しい文学が、他から来り臨んだ時の為に、実際その要求に叶ふものとしての文学が、既に用意せられて居たことになるのである。
私は、此文学の発足点を、邑落々々に伝承せられた呪詞に在る、と見て来てゐる。
日本文学の発生
最古い団体生活の様式であつた邑落が、海岸に開けて、其が次第に、山野の間に進み入つて行つたことは、事実である。さうした後の邑落或は国・村においても、やはり以前の時代の生活の形が、其相応に適当な様に、合理化せられて行つたことは、明らかであつた。第一、海及び海の彼方《アナタ》の国土に対する信仰は、すべて、はる/″\と続く青空、及びその天に接する山《ヤマ》の際《マ》の嶺に飜《ウツ》して考へられて行く様になつた。随つて、此二つの邑落生活の印象が、混淆せられて、後世まで伝つて来たことは、考へられるのだ。
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