の来由と、宮廷との関係その他を伝へてゐたからである。だから、村の新立・部民の結集の為には、叙事詩を与へる必要があつたのだ。もつと自然に言へば、村――及び部曲――は、物語の継承を必須条件として居た。村の開き主に関する物語なくては、村の存在は意味なく、存立危険なものでもあつたのだ。
大春日部その他の伝へと思はれる、安閑天皇・春日皇后の妻訪ひの物語歌の如きは、大国主・沼河媛の唱和と根本において異なる所がない。又反正天皇の御誕生に関する物語の如きも、同じ形式をたぐれば、三つの似た事蹟が、後代の皇子の上にも見られる。
叙事詩の史実化について、その糸口は書いた。事実において、真の歴史を後世に伝へる成心を持つてしたのが、語部の出発点でもなく、又その内容自身が、実在性の保障出来る唯一偶発事件の表現せられたものでもないのが、普通であつた。

      部落・部曲の詞章

尊い皇子の為には、その誕生から生ひ立ちの過程のある期間の叙述を類型的に物語るものが、中心になつてゐたのだ。言ひ換へれば、すべての尊貴の方々の出生に関する儀礼==産養―鎮魂―祓除―養育―母・小母・乳母に関聯した事==にくり返された類型の
前へ 次へ
全39ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング