族・邑落の君主と同様だと言ふことが出来る。其立ち場に立つて言うてゆけば、話が非常に簡単に進んでゆく。宮廷生活に依つて、民間の生活が見られると共に、邑落の生活から、逆に、宮廷の生活の古風を考へることが出来る。
邑落の生活、或は後々の貴族の生活で見ると、異人になつて来る者は、多く其家の主人であつた。其を接待する役は、其人に最《もつとも》血族関係深く、呪力を持つ女性が主として勤めてゐた。処が、日本の神道に於いては、女性の奉仕者を原則とするものゝ上に、更に、家長を加へたものが段々ある。其で宮廷に於いては、尠くとも天子は、大祭の際にはまれびと[#「まれびと」に傍線]であり、あるじであると云ふ矛盾した而も重大な立ち場に立たれる。此が宮廷に於ける主上が、祝詞を発せられる根本の理由だ。だから、祭事に参与する宮廷の高級巫女は、主上の御代役をしてゐる方面もある。
其宮廷の祭に於いても、主上が人々の上に臨んで宣布せられる詞章は、元《ハジメ》の代《ヨ》に、一度来臨した尊いまれびと[#「まれびと」に傍線]の発言せられた、と信じられて来たものなのである。其が、世が進み、社会事情が複雑になるにつれて、大同小異の幾種
前へ 次へ
全69ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング