繰り畳《タヽ》ね、焼《ヤ》き亡ぼさむ 天《アメ》の火もがも(宅守相聞――万葉集巻十五)
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情熱の極度とも見える。が一方、劇的の興奮・叙事脈の誇張が十分に出てゐる。要は態度一つである。此までの本の読み方以外に、かうした態度から見ると、背景が易ると、価値も自ら変らずには居ない。悲痛な恋愛、不如意な相思、靡爛した性欲、――かう言ふ処に焦点を置くのは、民謡の常である。東歌を見れば、それはよく知れる。民謡を孕む叙事詩中の情史に、その要素が十分に湛へられて居るからである。
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過所《クワソ》なしに、関《セキ》飛び越ゆる時鳥。我が身にもがも(?)。止まず通はむ
今日もかも 都なりせば、見まく欲り、西の御厩《ミマヤ》の外《ト》に立てらまし(以上二首、宅守相聞――万葉集巻十五)
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など態度の持ち方で信頼も出来るし、不安な作為の痕をまざ/\と見る事も出来るのである。
行路の不安を思ふことはあつても、配処の苦しさや径路を述べもしない。極めて近い処に居る様な安気な気持ちを見せてゐる。
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宮人の安寐《ヤスイ》も寝ずて、今日
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